こんにちは!
テレビのニュースや新聞で経済の話を聞いていると、なんとなく暗澹とした気持ちになってきませんか?
「日本に比べて海外はどうだからこのままではあーだ」だとか
「日本の若者は内向き志向で起業精神が乏しいからどーだこーだ」だとか
「もっと世界に通用するグローバルな人材を作らないとあれやこれや」だとか
でも一方で、こうした話がどこか現実の生活とそぐわないと違和感を感じる人も実は多いんじゃないでしょうか?
つまり、
『ほとんどの人は結局日本のなかだけで生きていくじゃん?』
ってことです。
今回紹介する『なぜローカル経済から日本は甦るのか』はこの違和感の正体を具体的な例を交えながら丁寧に明らかにしていきます。
格差の源泉はグローバル経済とローカル経済の違い
GとLの成長戦略
本書の副題は『GとLの成長戦略』となっています。
『G』とはすなわち『グローバル経済』、
『L』とはすなわち『ローカル経済』のことです。
この二つは全然違う性質を持っているので、いっしょくたに考えて政策による対応や経営を行うことはできない、と筆者は言います。
具体的にどういったところが違うのでしょうか。
『グローバル経済』の主役は製造業です。
扱う商品は輸送ができる「モノ」であり、世界中が市場になります。また規模の利益が非常に有効です。
例えば「車」は世界中で売れますし、ある程度大きな規模で生産した方が価格は安くなりますよね?
一方『ローカル経済』では非製造業が主役です。
商品は各種サービスを中心とする「コト」であり、サービスの及ぶ範囲が市場になります。
例えば地方の「バス運行会社」は世界を相手にすることなどできません。
『G』と『L』の格差
『グローバル経済』の市場は『ローカル経済』とは比べ物にならないほど大きいです。
つまりそれだけ商品を買ってくれる人も多いわけで、しっかり売れれば大きな利益をあげることができます。
しかし、競争相手も世界中にいて、世界の優秀な人材と毎日鎬を削り合わなければならない厳しい世界です。
一方『ローカル経済』は市場が小さく、大きな利益をあげることは難しいですが、密度の利益がものをいい、上手く経営すれば安定した利益を得ることができます。
このように『G』と『L』の格差は、現代の産業構造の必然の帰結なのです。
筆者は『G』の世界で闘う企業をオリンピックプレイヤーに例えています。オリンピックプレイヤーの報酬に文句を言う人はいませんよね?
経済学の弱点
経済学と言えば、学校でも習う需要供給曲線を思い浮かべる人がいるかもしれません。
需要と供給が一致するところに市場価格が定まるとかいう奴です。
しかし、本当にそうでしょうか?
例えば、ある駅の東口と西口に別々のスーパーがあり、西口のスーパーは少し割高だとします。
それでも、西口側に住む通勤帰りのサラリーマンなど西口のスーパーで買い物をする人は一定数いるでしょう。
少々の非効率は残ってしまう。これは『L』の世界では普通に起こりえます。
しかし、経済学はこういったことを考えるのが得意ではありません。
例えば、学校でも習う「商品が世界中でスムーズに交換可能なこと」という前提は『G』では通用しますが、『L』の主役である非製造業の扱う『コト』はそうはいきません。
『ローカル経済』の特性と現状をしっかり把握し、『L』へのアプローチを考え直す必要があります。
本書では実際に筆者が関わってきた例を交えながら、今後求められる『L』へのアプローチを丁寧に教えてくれています。
日本を取り巻く経済状況の変化
高度経済成長期
現在の日本の経済観を形作った高度経済成長期のことについても触れられています。
高度経済成長期の最大の特徴は製造業が『G』の世界で稼いだ利益が下請け企業などを通じて、国内に還元されていたことです。(トリクルダウン)
ところが現在ではこのトリクルダウンはあまり起きていない。
トリクルダウンが起きていたころは、
『G』の企業への支援や保護 = 『L』の企業の支援や保護
だったのですが、現在では必ずしもそうではありません。
『L』の重要性の増大
現在、製造業に従事する人は20%を切っています。
一方非製造業に従事する人は80%に達し、中小企業の9割以上は非製造業です。
ニュースでも『G』を相手にする大手の製造業の話が取り上げられがちですが、非製造業の重要性は増してきています。
働くということを自分の中にしっかり位置づける(感想)
直木賞を受賞した朝井リョウさんの『何者』には就活を前に苦しむ学生たちの姿が描かれています。
どうも今日、働くということがイデオロギッシュになりすぎているように感じます。
そう大人達に教えられてきた気もします。
やりたいことを明確にしろだとか、もっと世界と戦う気概を持て、だとか。
もちろんそういった気持ちが大切な世界もあるとはありますが、全ての世界でそういうわけでもないでしょう。
バスの運転手に必要とされるのは、やりたいことを明確にすることでも世界と戦う気概をもつことでもありません。丁寧に安全に配慮した運転をすることです。
仕事の最もシンプルなかたちは、誰かがやってほしいことをやってあげて報酬をもらうことです。
もちろん『G』の世界で活躍するのも素晴らしいことだと思います。
でもほとんどの人は『L』の世界で働きます。生きていくためにはみんな何らかの仕事をしないといけない。
もちろん収入に差はあるでしょうが、そこには貴賤はないと思います。
それに『G』の世界の人が頑張ってくれるおかげで、様々な便利な製品が安く手に入るのです。
卑屈にならず感謝して、自分は自分で人生を豊かにしていくのが大事じゃないでしょうか?
筆者はこう言っています。
自分の仕事にどれだけの矜持を持てるか。
この思いが、職場の規律を維持するうえで大切な要素になる。矜持を持つことができて、それほど生活に困らない安定した収入があれば、じぶんなりの幸福感をつくっていける。おそらくそれが、これからのローカル経済圏のゴールになる。
以前読んだ『明治日本の女たち』を思い出しました。
明治初期日本に長期滞在したアメリカ人女性による本なのですが、そこに日本の召使や車夫などについて書かれていました。
彼らはアメリカやヨーロッパの召使と違い、全く卑屈さを感じなかったし、むしろ矜持を持っているように感じたそうです。
彼らは働くということを自然にしっかりと自分の中に位置づけられていたんじゃないでしょうか。
様々な情報が氾濫し、イデオロギッシュな文言に溢れている現代だからこそ、自分の価値ではなく自分の仕事の価値をしっかりと受け止めることが、仕事に矜持を持つ第一歩ではないでしょうか?
読みやすさ
ページ数は273ページで、ところどころ図も入っています。
時折専門用語もでてきますが、なんとなく字面からわかる程度ですし、言いたいことは理解できると思います。(僕も経済のことはど素人ですが問題なかったです)
3時間ほどで読むことができました。
まとめ
上にも述べたように『G』と『L』の違いが本書の要点です。
筆者が実際にかかわってきた具体的な事例も豊富です。
『G』の世界で徐々に後退する日本企業や逆に活躍する企業、『L』の企業の腐敗への対応、日本の労働人口の減少、中小企業保護、ブラック企業についてや終身雇用年功序列などにも触れていて網羅的な内容です
僕自身は働いたことものないペーペーですが、現状とその対策を偏見なく冷静に分析できているように感じました。
どんな方も一読の価値ありです!
よく聞く経済の話になんだか違和感を感じている人には特におススメです!!