人間は基本テキトーな生き物だ

人生は選択の連続である

異論のある人は少ないだろう。確かに私たちは日々様々な選択をしている。受験校の選択や就職先の選択といった人生の方向性を決める大きな選択もあれば、ジュースを買うかどうかや誘いに応じるかどうかなど日常に溢れる小さな選択もある。

そしてこの言葉から「自分の望む未来のためにより良い選択をしよう。」という教訓が引き出されることも多い。

だがこの教訓は大して有用なものではない。

なぜなら良い選択がどちらなのかハッキリ分かるケースは現実にはほとんどないからだ。たとえ分かると感じたとしても、意識に登らない要素は比較に際して考慮しようがないので限界がある。そもそもどんな未来を望むかどうやって選択するのだろう

私たちは何らかの意思(考え)をもって選択を行う。ではその意思(考え)はどこからやってくるのだろう。どうやって決まるのだろう。

今回紹介する『ファスト&スロー』はそんな疑問に鋭く迫る一冊だ。

  • 「お金」をイメージさせるだけで、利己的な振る舞いが増加する。

  • 誉めても叱っても結果は同じ。

  • 夫婦が離婚するかどうかは「セックスの回数 ― 喧嘩の回数」で概ね予測できる。

  • 専門家は間違うことの方が多い。

  • 同じ内容の質問でも聞き方を変えるだけで、答えが180°変わる。

 

あなたはこう聞くと驚くだろうか。気になった人はぜひ一読をおススメする。上下巻でページ数は多いが、具体的な話が多く決して難解ではない。

二つのシステム

意思を決定する機構は二つのシステムからなる、と筆者はいう。

衝動的で直感的、決定は速いが自分で制御できないシステム1。論理的思考能力を持つが制御には努力を要するシステム2。タイトルの『ファスト&スロー』とは二つのシステムの速さを指す。

システム1の優れているところは、とりあえず行動の方向性を定められることだ。現実には考慮し尽くせないほど膨大な要素がある。もしシステム1が無かったら、あなたは一生行動を始めることができない。しかも、システム1は意識せずとも自動的に働いてくれる。

システム2はシステム1が出した結論を論理的思考でもってチェックする。システム1は決定が速い分間違えるときもあるのでチェックは重要だ。だがシステム2にも弱点はある。怠けがちなのだ。チェックが十分になされないこともあれば、システム1が出した結論を論理でもって補強してしまうことさえある。いわゆる正当化というのがこれだ。

この二つのシステムがどのように働き、どんなときにエラーを起こすかを認知心理学・行動経済学の実験的アプローチから、筆者は徹底的に調べ上げる。

システム1がいかに影響されやすいか、私たちは嫌というほど知ることになる。自分の意思なんてものはまやかしじゃないか、とさえ言いたくなるかもしれない。

システム1のエラーを正すのはシステム2しかない。ただシステム1は強力なので、対策無しではシステム2有効に働いてくれることは期待できない。

そこで事前にシステム2を動員し、システム1がエラーを起こしづらい仕組みを作っておくことが有効な手法だ。会議の際は自分の意見を全員にまとめてきてもらうなど、具体的なアイデアも数多く紹介されている。

後半部分で筆者は、これらを踏まえて幸福についても言及している。システム1がエラーを起こすとは言え、システム1に従うことが不幸とは限らない。幸福は難しい概念だが、筆者は慎重に迫っていく。その確かな一歩は今後の社会の枠組みを定める足掛かりになることだろう。

意思とのつき合い

人を動かすにはシステム1に訴えかけるのが有効だ。広告はその最たるもので、私たちのシステム1は想像以上の影響を受けているに違いない。報道では常に分かりやすい物語が求められる。政治はポピュリズムの最盛期だ。

システム2の旗色は悪い。そんな中この本は強力な援軍になるだろう。

人間は基本テキトーな生き物だ。だから悪いというわけではない。だが、統計的な概念などシステム1が苦手な領域が確かに存在する。国や組織といった、多くの人の利益に関わってくる領域もそうだ。増え続ける日本の借金を見ればこのことは明らかだろう。

「自分の幸せは自分で決める」という時代だ。だが、この考えは容易に思考放棄に結びつき、自分以外の存在を見えないところに押しやってしまう。しかし、そのことをいくら論理的に指摘したところで、それは世界を理解する物語としては有用でも、実際の行動には繋がらないのかもしれない。

テキトーな人間がテキトーでも行動を変えていけるような枠組み作りにもっと努力を割いてもいい。それが2つのシステムを持つ私たちの意思との上手い付き合い方ではないだろうか。

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