こんにちは!
児童文学、大人になると触れる機会は少なくなってきますよね?以前に上橋菜穂子さんの『獣の奏者』をレビューさせていただきましたが↓
児童文学の中には大人が読んでも楽しめる物語がたくさんあります。むしろ大人になってからの方が色々と考えさせられることも多いです。子供は時に本質を見通す力を持ちますし、長らく子供たちに愛されている物語は人間にとって本質的なテーマを問いかけているのかもしれません。
今回はそんな物語の一つ、児童文学の巨匠ミヒャエル・エンデによる『はてしない物語』の紹介です。
ドイツ人のエンデですが、日本人と結婚しており、日本との関係が意外と深かったりします。作品としては『モモ』の方が有名かもしれませんね。
二つの世界
物語の主人公は冴えない小太りの少年バスチアン・バルタザール・ブックス。見た目と同じく冴えない毎日を送っていた彼は、ある日導かれるように一冊の本を手にとります。表紙には『はてしない物語』とあります。つまり入れ子構造になっており、僕たちはバスチアンと共に、『はてしない物語』の中の『はてしない物語』を読みすすめることになります。
バスチアンの世界(ぼくたちの世界)と『はてしない物語』の世界。この二つの世界の関係が前半の山場となるわけですが、そこには人間世界の不条理や人間の汚い部分の秘密が隠されています。物語には物事の本質を美しく表現する力がありますが、そういう意味ではこの物語は紛れもない『物語』だなと思います。秘密を知ったバスチアンはこう感じます。
生きるということがこんなに灰色でおもしろみがなく、神秘なことも驚くこともないのが、これまでどうしても納得できなかった。みんなは、二言目には、これが人生さといいはるけれども。
世界の秘密と危機、そしてそこに自分も関わっているという直感がバスチアンを突き動かしていきます。
希望、意志の先へ
前半部分だけでもかなり楽しめるのですが、そこで終わらないのがこの『はてしない物語』の素晴らしいところです。
世界から閉じこもるのを止めたバスチアン。理想や意志、思いやりをもって様々なことを成し遂げていきます。しかし、どういうわけか徐々に歯車が狂ってきます。希望に満ちた道を進んできたはずなのに、いつのまにかどんどんと道は狭まり、悲惨な行き止まりさえ見えてくるのです。
八方塞がりの状況をどう乗り越えていくのか、これが後半の山場になります。
バスチアンは、最も偉大な物とか、最も強いものとか、最も賢いものでありたいとは、もはや思わなかった。
物語の力(感想)
素晴らしい児童文学を読むといつも物語の力を実感させられます。伝え方によってはただの綺麗ごとに思えるようなことも、物語の形だとスッと心に入ってきます。
理想や意志は大切ですし、それらを持っていると安心なのかもしれません。ですが、それらに囚われてしまうと知らず知らずのうちにおかしな方向に進んでしまうのでしょう。
論理もそれ自体は素晴らしい力ですが、使い所を誤ると容易に自己の正当化に堕してしまいます。
本書はこうしたたくさんの魅力的な落とし穴を乗り越え、『はてしない物語』を紡いでいく道標をくれるのではないでしょうか。(⇐ロマンチストすぎますかね笑)
読みやすさ
26文字からなるアルファベットになぞらえて、26章からなります。600ページ弱でとても長いですが、基本的に各章毎に起承転結があるので、飽きることなく読み進められるんじゃないかと思います。上で紹介した物語の構造以外にも、思わず考えさせられる比喩的なファンタジーストーリーが盛りだくさんです。どんな人も一読の価値ありです!